私は、この問題から少しずつ離れていった。
だが、疑問が消えたわけではなかった。
むしろ、最後まで残った疑問は一つに絞られていった。
約1,455万円は、結局、誰が受け取ったのか。
K社長の話が、すべて正しかったとは今でも思っていない。
出来事から十五年以上が経っていた。
記憶違いもあっただろう。
話の中には、つじつまの合わないところもあった。
預金総額は約1,455万円なのに、なぜ約1,000万円を振り込むという説明だったのか。
残りの約455万円はどうする話だったのか。
「白紙の領収証」と呼んでいたものは、本当に領収証だったのか。
行員Aは、本当に6月8日に退職したのか。
2019年の支店訪問で、本当に実印が執務室へ持ち込まれたのか。
支店長は本当に、
「Kさん、金、下ろしたんじゃないの?」
と言ったのか。
どれも、私がその場で確認したことではない。
K社長から聞いた話である。
だから、それらを銀行側の事実として書くことはできない。
一方で、資料によって確認できたこともあった。
2006年6月8日。
普通預金1,354万6,120円。
定期預金100万円。
合計1,454万6,120円。
その全額が、通帳の上では払い戻されている。
残高はゼロになっていた。
そしてK社長は、
「自分は一円も受け取っていない」
と言い続けた。
もしK社長の記憶違いだったのなら、それでもよかった。
本人が現金を受け取った記録があれば、それを見れば終わる。
別口座へ送ったのであれば、送金先を確認すればよい。
第三者が正規に受け取ったのであれば、その記録があればよい。
ところが、その一番単純な確認が最後までできなかった。
私は、銀行員が横領したと決めつけたくなかった。
一方で、
「回答済みである」
という言葉だけで、
「K社長の勘違いだった」
と片づけることもできなかった。
私が知りたかったのは、犯人ではない。
事実だった。
2006年6月8日。
あの日、口座から払い戻された約1,455万円は、どこへ行ったのか。
その疑問は、結局残った。

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